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第3話 推しからの、深夜のDM

Penulis: 月歌
last update Terakhir Diperbarui: 2025-12-01 20:48:58

イベントから三日後の夜。

残業を終えて帰宅し、シャワーを浴びてベッドに倒れ込んだ。

疲れた。

今週は締め切りラッシュで、毎日終電だった。

スマホを開いて、Twitterをぼんやり眺める。

タイムラインには蓮くんの新しい出演情報が流れてきた。

「来月、新作ドラマCDか……」

呟きながら、画面をスクロールする。

その時、通知が来た。

DMのマーク。

「また営業DMかな……」

興味なさげに開いて——固まった。

画面に表示される、差出人の名前。

柊木蓮(公式)

「……は?」

声が出ない。

なりすましだろう。

蓮くんが一般人にDMなんて——

認証マーク。

公式の、青いチェックマーク。

本物だ。

画面を見つめる。

メッセージが表示されている。

『先日はイベントにお越しいただき、ありがとうございました。お手紙、読ませていただきました。五年間応援してくださっているとのこと、本当に嬉しいです。あの時ペンをお返しできなくて……すみません。もしよければ、次回お会いした時にお返ししたいのですが』

「……………」

もう一度読む。

何度読んでも、意味がわからない。

ペンを返す?

なんで蓮くんが私にDMを?

どうやって私のアカウントを見つけたの?

パニックになりながら、康太に電話をかけた。

呼び出し音が二回鳴って、繋がる。

「もしもし?どうした、こんな夜中に」

電話越しに聞こえる、康太の声。

「康太、聞いて。落ち着いて聞いて」

「美月、声震えてるけど」

「蓮くんから、DMが来た」

受話器の向こうで、三秒の沈黙。

「…………はあ?」

「寝てない!本当なの!スクショ送る!」

電話を耳に当てたまま、画面をスクショして送信する。

五秒後、電話越しに康太の声が跳ね上がった。

「待って!!これ!!本物!?」

「わからない!!でも認証マーク付いてる!!」

「どうすんの!?返信すんの!?」

受話器を握る手が震える。

「わからない!!何て返せばいいの!?」

二人で一時間、パニックになった。

結局、康太のアドバイスを受けて、こう返信することにした。

画面に文字を打ち込む。

『こんばんは。お忙しい中ご連絡ありがとうございます。ペンのことは大丈夫です、お気になさらないでください。イベント、とても感動しました。これからも応援しています』

当たり障りなく、丁寧に。

送信ボタンを押す手が震える。

「送った……」

電話越しに、康太の声。

「お疲れ。じゃあ俺寝るわ」

「ちょっと待って!まだ電話切らないで!」

「美月、もう二時だぞ」

「もしすぐ返信来たらどうするの!?」

受話器の向こうで、康太が溜息をつく。

「来ないって、こんな時間」

その時、通知音。

画面を見る。

「…………来た」

電話越しに、康太の声が跳ね上がる。

「は?」

「返信、来た」

震える手で画面をタップする。

メッセージが表示される。

『まだ起きてたんですね。お仕事お疲れ様です。ペンのこと、本当にすみません。あと……少し聞きたいことがあるんですが、今大丈夫ですか?』

「聞きたいこと……?」

なに?

なにを聞かれるの?

電話越しに、康太が叫んでいる。

「どうする!?返信する!?」

「する……するしかない……」

画面に文字を打ち込む。

『時間大丈夫です』

送信。

すぐに返信が表示される。

『あの、お手紙に書いてあったんですが……「黎明の騎士団」のアルベルトで知ってファンになったと』

アルベルト。

蓮くんが演じた、私が初めて好きになったキャラクター。

次のメッセージが届く。

『実は、あの役は僕にとって転機だったんです。それまでずっと上手くいかなくて、声優辞めようかと思ってた時期で』

え。

画面を見つめる。

『でもあの役をやって、初めて「この仕事を続けたい」って思えた。だから、あの作品から応援してくれてる人に会えるのって、すごく嬉しいんです』

胸が熱くなる。

蓮くん、そんな風に思ってたんだ。

次のメッセージ。

『だから、お手紙読んで……なんか、すごく救われた気持ちになりました。ありがとうございます』

涙が出そうになる。

私の手紙が、蓮くんに届いた。

画面に文字を打ち込む。

『こちらこそ、ありがとうございます。アルベルトは私にとって特別なキャラクターです。あの役を演じてくださって、本当にありがとうございました』

送信してから、これでいいのか不安になる。

でも、すぐに返信が表示される。

『……なんか、こうやって話せて嬉しいです。普段、ファンの方とゆっくり話す機会ってなくて』

蓮くんの本音?

次のメッセージが届く。

『イベントとかだと時間も限られてるし、SNSも常に見られてるから……本音で話せる人って、実は少ないんです』

それは、寂しいということだろうか。

画面に、また文字が表示される。

『もしよければ、また話してもいいですか?こんな時間に突然すみません』

電話を耳に当てたまま、呟く。

「康太……どうしよう」

受話器の向こうで、康太が叫んでいる。

「いいに決まってんだろ!!「はい」って送れ!!」

「でも、これって……」

「考えるのは後!!今は推しとお話しできるチャンスなんだぞ!!」

そうだ。

これは夢かもしれないけど、今は——

画面に文字を打ち込む。

『はい、ぜひお話しさせてください』

送信。

その夜、私と蓮くんは朝方までDMでやり取りをした。

画面に次々と表示される、蓮くんのメッセージ。

仕事の話。声優という職業の孤独。ファンには見せられない、弱音。

それから、私の話も少し。

出版社の仕事のこと。三十一歳独身で、毎日ワンルームと会社を往復するだけの日々。

画面に表示されるメッセージ。

『三十一歳なんですね。僕より年上だ』

次の行。

『あ、すみません、失礼なこと言ってしまって』

慌てて返信を打ち込む。

『いえいえ!全然大丈夫です!』

送信。

蓮くんは二十五歳。

私より六歳も年下だ。

画面に、蓮くんの返信が表示される。

『なんか、年上の方だと思うと……変な言い方ですけど、安心します。話しやすいというか』

その言葉が、妙に嬉しかった。

次のメッセージ。

『もう少し話していたいんですが、明日……というか今日、早いので』

時計を見ると、午前四時。

画面に文字が表示される。

『すみません、こんな時間まで』

返信を打ち込む。

『いえ!こちらこそ、ありがとうございました』

送信。

すぐに返信が届く。

『また、お話しできたら嬉しいです。おやすみなさい』

「おやすみなさい」

画面越しに、呟く。

スマホを胸に抱いて、ベッドに倒れ込んだ。

信じられない。

推しと、夜通し話した。

これは夢じゃない。

翌朝、目が覚めて真っ先にスマホを確認した。

画面を開く。

DMの履歴が、ちゃんと残っている。

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